平成10年5月に総務省の勧告を受けて、厚生労働省は平成11年3月に、民間リハビリテーション施設に通う生活保護者の通所費用について、支給要件を明確化したが、それは不十分なものであった。これは薬物依存症者への自立のため必要かつ有効であると認められるとして民間リハビリテーションセンター(いわゆるダルク)への通所移送費は支給されることとなったが、NAの参加移送費支給については明確化されることはなかった。
これまでアルコール依存症に関しては断酒会等に参加するための交通費支給は「局第7-2(7)ア-(セ)a」に基づいて支給されていた。この中でアルコール依存症者が「断酒を目的とする団体」への参加ということで断酒会だけではなくAA(アルコホーリクス・アノニマス)への移送費も支給されていた。しかし、薬物依存症者がNAの参加するための移送費は基本的に支給されていなかった。一部の福祉事務所や担当者、医療関係者の積極的な自立支援や取り組みにおいて、薬物依存症はアルコール依存も含み、NAがアルコールも薬物の一種と捉え断酒を実践している団体であり、当事者の断酒、断薬に必要かつ有効であることから移送費の支給がなされてきた。ちなみに私自身9年間生活保護を受けていたが今述べたような解釈において支給されてきた。私自身の自立や社会復帰に大きな役割を果たして下さった。この場を借りて感謝を申し上げます。これは今も京都市や大阪市を含む多くの自治体でこのような運用がなされている。この報告において支給決定がなされている福祉事務所で支給中止にならない事を切に願う。
平成11年に、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律(平成11年法律第65号)により,覚せい剤慢性中毒者に関する準用規定(44条)が廃止されるとともに、依存症者が精神障害者に含まれることが明確化された。 よって覚せい剤慢性中毒者を精神保健福祉法の対象外とするものではないことに留意し、これまで精神医療・福祉行政の対応で中途半端であった薬物依存症を医療・福祉の援助対象として明確に位置付けた。総務省の勧告もあり薬物依存症者がダルクへ通所するための移送費が支給されていくようにはなったがNA参加のための移送費は明文化されなかった。
しかし、この事はいまだ生活保護行政において薬物依存症がアルコール依存症と同等の取り扱いをされておらず疾病差別を受けているのではないと考える。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律が改正されて10年を過ぎたがそれに合わせて関連法令も整備されてよいはずだが、今回ご報告の移送費に関しての国の対応は理解しがたい。特に地方都市において、NA参加移送費が支給されない取り扱いが多い。
後に平成18年に国会においてもこの問題が指摘されたが、意図的なのか、単なる知識不足なのか、質問と回答にずれがあり、自助グループ(NA)と民間リハビリテーションセンター(ダルク)を混同して回答をしているように思われる。このやり取りは、質問をした前原議員も回答をした政府も質問の内容をよく存じていないのか、どこからか依頼を受けた国会質問であったせいなのか、受けた回答以降踏み込んだやり取りは無いようだ。
ぜひ、皆さんにこの現状を知っていただき生活保護を受ける薬物依存症者が自立や回復のために必要かつ有効であるNA参加のために移送費が支給されることになるようにお力をお貸しいただければ幸いです。何卒よろしくお願い申し上げます。
― 参考資料 ―
― 生活保護の実施要領 ―
局第7-2
(7) 移送費
ア 移送は、次のいずれかに該当する場合において、他に経費を支出する方法がないときに乗車船券を交付する等なるべく現物給付の方法によって行なうこととし、移送費の範囲は、(ケ)又は(サ)において別に定めるもののほか、必要最小限度の交通費、宿泊料及び飲食物費の額とすること。
この場合、(ア)若しくは(イ)に該当する場合であって実施機関の委託により使役する者があるとき、(ウ)、(オ)、(コ)若しくは(シ)に該当する場合であって付添者を必要とするとき又は(エ)に該当する場合の被扶養者にあっては、その者に要する交通費、宿泊料及び飲食物費並びに日当(実施機関の委託により使役する者について必要がある場合に限る。)についても同様の取扱いとすること。
(イ)から(ス)は省略
(セ) 次のいずれかに該当する場合であってそれがその世帯の自立のため必要かつ有効である
と認められるとき。
a アルコール症若しくはその既往のある者又はその同一世帯員が、断酒を目的とする団体(以下「断酒会」という。)の活動を継続的に活用する場合
b アルコール症又はその既往のある者(同伴する同一世帯員を含む。)が、断酒会の実施する2泊3日以内の宿泊研修会(原則として当該都道府県内に限る。)に参加する場合
c 精神保健福祉センター、保健所等において精神保健福祉業務として行われる社会復帰相談指導事業等の対象者又はその同一世帯員が、その事業を継続的に活用する場合
― 国会での質問と回答 ―
平成十八年十二月十二日提出
質問第二三七号
薬物乱用及び再犯防止対策と治療回復支援に関する質問主意書
提出者 前原誠司
三
ダルク施設入所者の多くが、生活保護費を受給しながら回復プログラムに取り組んでいる。生活保護手帳の中の、第六最低生活費の認定の中の三臨時的一般生活費の(セ)a「アルコール症若しくはその既往のある者又はその同一世帯員が、断酒を目的とする団体の活動を継続的に活用する場合」とあるが、薬物依存症が自助グループに参加するための移送費は明記されておらず、多くの自治体では移送費が支給されない。移送費支給の対象とするよう認定要件の見直しを求めるが、政府の見解は如何。
平成十八年十二月二十二日受領
答弁第二三七号
内閣衆質一六五第二三七号
平成十八年十二月二十二日
内閣総理大臣 安倍晋三
衆議院議長 河野洋平 殿
衆議院議員前原誠司君提出薬物乱用及び再犯防止対策と治療回復支援に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
三について
御指摘のとおり「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和三十八年四月一日付け社発第二百四十六号厚生省社会局長通知)においては「薬物依存症者」がいわゆる自助グループに参加するための移送費の支給について明記されていないが、当該グループの活動が民間活動として行われるものであっても、国又は地方公共団体から当該活動に対し補助が行われている等の場合で社会復帰に効果が期待できると認められる場合には、当該グループに参加する「薬物依存症者」は、同通知の第六の二の(七)のアの(セ)のcの社会復帰相談指導事業等の対象者に該当し、移送費の支給の対象となるものであり、地方公共団体に対してその旨の周知を図っているところである。
加藤
0 件のコメント:
コメントを投稿